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世の中には、訳アリ物件に関するトラブルが溢れています。第4話

そんなトラブルに巻き込まれた人々の、昔々のとあるお話~~~

『共有持分財産って自分の分だけで売れない?』第4話

困ってしまった次郎はただただ途方にくれるばかり。
助太刀してくれるサルもキジもイヌもいません。
戦うべき鬼がどこにいるのかさえも、もうよくわからないまま、
呆然と立ち尽くしたその時、突然次郎の肩を叩くものがいました。



振り返るとそこには、見ず知らずのおっさんが一人。

「どうもどうも。お兄さん、なんや、お困りごとかなんかなん?引越し??」

え?なに?引越し?
なんのこと?

「え?物件探しとちゃうの?ごめん!ごめん!勘違いやわ。あ、僕?僕はね、怪しいものちゃうよ。ほら、見てみ、ここ。この店、僕の店やねん。てか店の前で、めっちゃ深刻そうに立ってはるし、物件探しとか、うちになんや用事かな?って思て。。。あ!僕はこういうモノです」

そういって、なんか怪しい関西弁のおっさん、もといその男はスコーーンと名刺を取り出し、恭しく僕の前に差し出す。

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ほったらかし空き家解決不動産
代表取締役社長 南町 博昌
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「ほったらかし、、、、、空き家、、、」

「そうそう!なんちゅうかなぁ。訳アリ物件?知ってる?そういうのをね、メインにやってんねん。相続で揉めてる空き家とか、権利関係が複雑な物件とか。あるやろ?不動産もそうやけど、なんか人助けっちゅうんかな。そういうんやってるから、困ってそうな人見かけると、見過ごされへんちゅうことやわ」

「はぁ。。。」

「で、、、?引越しでなくて?なんかお困りごと?」

そういうと、商店街の中でも一段と年季の入っている、昭和そのものな店構えのガタついた扉をガラガラと開けて、僕を中へ入るよう促してくれる。

「あ、時間ある?もしよかったら、話聞くで。ちゅうか、むしろお茶でも飲んでいき~や!疲れた顔しとるし!たまには息抜きも大事やで!僕も今日はもう疲れたし、とりあえず休憩休憩!あ、ちょっと待っててな。今お茶いれるから!むっちゃ、うまいで!」

「あ、いやお構いなく。。」

「いや、お構いしてへんがな、自分が飲みたいだけやから!」

なんか、ものすごくあけすけな人の様だ。
完全にペースを奪われ、いつの間にか僕は、店内へと足を踏み入れていた。

しかしこの人、警戒心という言葉を知らないのだろうか。
僕が、悪いやつだったらどうするのだろう。

「あ、座って座って!はい、お待ち動産、不動産!」



きょとんとした僕を見て、南町さんは自分のダジャレに大口を開けて笑いながらお茶を
出してくれた。

・・・・。

「いや、ごめんな。いつも、つまらんダジャレいうな!って言われるんやけど。だれがつまらんねん!まぁ息よ、息。ほら、なんやっけ、、、笑いの呼吸?壱の型~?やったっけ?いや、弐でも参でもええねんけど。がはははは!」


・・・・。
久しぶりに、こんなに笑ってる人みたな。
僕はそう思いながら、なんか少し呼吸が楽になった気がしていた。
介護、仕事、介護、仕事。
ここ数年、笑うどころか、こうやって人と、何気ない話すらしていなかったことに気付く。
この人にだったら、、、

「僕、、、、」

楽しそうに笑っていた南町さんの顔が、心配そうに僕の顔をのぞく。

「僕、、、、。」

「何でも言ってや、ほら、喋るだけで楽になることってあるやんか?僕が役に立てるかは分からんけども、店の前で会うたのも、きっとなんかの縁やしな!」


「僕、、、母と一緒に暮らしてて」

うんうん。とうなずきながら先を促される。

「ここ数年、母はあんまり調子よくなくて」

「ずっと、仕事と介護で、毎日、仕事と介護で」

うんうん。
僕の拙い話を遮ることなく、辛抱強く聞いてくれる南町さんに、ここ数年の介護と
母を老人ホームにいれて、マンションを売ろうと思っていること。
でも共有持分財産のもう片方の所有者の兄は、マンション売却に全く聞く耳を持ってくれなかったことなどをかいつまんで説明した。

「さっき、やっと兄に電話が繋がったんですけど、、、、兄は売る気はない。の一点張りで、、、」

「で?次郎さんは結局、何をそんなに悩んでんの?」

「え、いやだから、共有持分の財産だし。それを手放すにはもう片方の権利者の了承がないといけないのですよね。。。」

「次郎さん。。。あぁ、そうか、、うん、、それな、、、共有持分の財産って、自分の持分だけでは売れない。って誰に聞いたん?」

「いえ、なんか、そういうものなのかな。って思ってたんですが、、、」

「あ、そうなんや。自分で調べたりとかは特にしてなかったんか。なるほどなるほど」


またしてもきょとんとしている僕に南町さんは微笑みかけて口をひらいた。

「売れるで。自分のだけ」

え?


(次回につづく)

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※本コラムは個人の特定が出来ぬよう、作中にフィクションを織り交ぜたエピソードとなっています。