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世の中には、訳アリ物件に関するトラブルが溢れています。第2話

そんなトラブルに巻き込まれた人々の、昔々のとあるお話~~~

『共有持分財産って自分の分だけで売れない?』第2話

数回鳴らした発信音が女性の声に代わる。
ただいま、電話に出ることが出来ません。。。

携帯の発信画面を消して、ため息をつく。
母に会話を聞かれたくなくて、次郎は買い物がてら家を出て
何回か発信を繰り返してみたが、結果は同じ。
ここ数日、時間を変えて何回か連絡をしているが、
多分長男は電話に出る気がないのだろう。

あの日、共有持分でこのマンションを相続して以来、長男の太郎が母に会いに来たことは
一度もない。もともとあまり仲の良い家族ではなかった。両親ともに健在だったころも、
長男が家族に会いにくることは稀だった。父さんが死んだあの時、そして母さんがマンションに二人を呼んだ日以降、また音信不通になっている。

次郎は、マンションを売りたいと考えていた。
10年間、母と過ごしてきた。
矍鑠(かくしゃく)としていた母も、いつの間にか衰え、ここ数年は急に体調を崩したりで要介護認定を受けた母の介護をしながら生きてきたが、
結婚するタイミングも逃したまま、このまま老いていくかもしれない自分の未来は、もうほとんど諦めているといっても過言ではない。
ただ、母に不憫な思いはさせたくない。その一心で自宅で介護を続けてきた。
しかし、先日その母の介護の認定級が4になった。ヘルパーさんがいるとはいえ、もう一人では限界だった。
たまに意識がはっきりとする母と相談の上、次郎は母を老人ホームに入居させ、このマンションを出ることにしたのだ。

家への帰路。商店街の一角でふと立ち止まり、
諦めきれず、もう一度発信してみる。

(次回につづく)

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※本コラムは個人の特定が出来ぬよう、作中にフィクションを織り交ぜたエピソードとなっています。